あれは、確か、1988年頃のことだと思います。
学校の食堂で「MACLIFE」誌を読んでいたとき、Apple ComputerとApple Corpsの間に商標権を巡る争いがあり、Apple Corpsの弁護士が「音楽関係のデバイスを出すのなら、バナナとかピーチを名乗るべきだ」とアナウンスした記事を目にして、私は、にやりとしました。いいなぁ、このセンス!
Appleは、昨晩、今までやったことのない予告を突然行いました。
クリスマスシーズンを前にして、なにか画期的なデバイスを発表するのだという気もしますが、世間では、ビートルズの曲をiTunesから配信するという話題じゃないかという話がもっぱらです。
「え、それだけ?」
そんな声も聞こえてきそうですが、私はこれが歴史的な瞬間であると感じます。
そう、
これは、Appleの勝利の宣言であるのではないか、と。
再び、1988年。
あの頃のAppleユーザの渇望を皆さんは想像できるでしょうか。
日本語のMac情報といえば、今はなき「MACLIFE誌」しかなく、しかも、それは当初「季刊」でした。
数ヶ月遅れのMacUser誌やMacWorld誌(米国)を360円レートで購入し、読みあさる。
洋書コーナーをうろつき、「M・・・」で始まるタイトルにビクッとすると、大抵、それは「Microsoft」なんとかで、ガッカリする。
知人に「Macintoshがね」と言えば、「キットカットか?」と聞き返され、
ちょっと物知りには「それはアンプ?」などと言われ、
本当に、Macユーザには、さんざんな時代だったのですよ。
徐々に知名度が高まり、今や、Macと言っても「マクド?」と聞き返されることはなくなりました。
キットカットも、その商品名から「マッキントッシュ」の文字がなくなりました。
今、「Apple」と言えば、誰もがコンピュータメーカーを連想し、ビートルズを連想しない。
そんな黄金時代になっています。
しかし、それでも、ビートルズはAppleを振り向いてくれませんでした。
iTunesが音楽事業であるからと、幾度もAppleを訴え、ついに、2007年、Appleは、商標権をApple Corpsから買い取ってしまう合意に達します。
しかし、しかし、
それでも、ビートルズは、Appleを振り向いてくれない。
iTunesへの音楽配信を認めてくれませんでした。
もし、これから行われる発表が、ビートルズの曲の配信開始だとしたら、
それは、Appleの30年にわたる闘いへの勝利宣言です。
商標権をも得、そして、音楽配信を委ねてもらうという栄誉に浴する。その勝利宣言です。
長い闘いで、費やした費用も馬鹿になりません。相当な負担だったはずです。
しかし、それでも。
何が何でも。バナナとかピーチを彼らは名乗るわけにはいかなかった。
それは、ジョブス自身がビートルズを尊敬しており、社名そのものもビートルズに由来する(と、思われる)からじゃないでしょうか。
その強い思いに、私は心打たれます。
30年間の敬愛とラブコールが、今、結実しようとしている。
ガレージから出発したコンピュータの天才が、音楽の天才から認められようとしている。
だから、「それだけ?」と言わず、感慨深い拍手で、それを祝おうじゃないですか。
まさしく、それは、勝利の宣言。おめでとう、Jobs総統! おめでとう、信じて待った私たち!
あと40分ですが、私も、胸を熱くして、待っています。
追記:
※Apple CorpsとApple Incとの争議はWikipediaを参照 アップル対アップル訴訟
※二重ポストをしたので、もう一方は削除します